1月 06日 フランス・ロワールの自然派ワイン生産者セバスチャン・リフォーのソーヴィニョンブランを飲んでほしい
それがワインであれ、料理であれ、アート作品であれ、その完成度の高さに対する必要な努力は指数関数的に増大する。
たとえば、60点の完成度の作品を20点上げて80点の完成度にするのに必要な努力は、0点から60点にするのに匹敵する努力が必要で、80点から90点にするにはさらに同様の努力が必要だ。完成度に対する努力はすればするほどコスパが悪くなるばかりか、ノウハウも簡単に手に入りづらくなり、運良く完成度を高くできたところで、ほとんどの人にはその完成度の高さを理解される事はないだろう。
そのような孤独な努力を重ね、何かを創作しようとしている人は、評価してもらいたい人に運良く評価してもらうことで、その努力が初めて報われるが、必ずしもその一つ一つの意図や苦労に対して理解してもらうことは望んでないのではないだろうか。映画を制作している人は面白い・感動した、という評価を望んでいるのであって、一つ一つのシーンやセリフの間、演技の難しさ、音楽の効果を適切に評論されることをはじめから期待していないのだと思う。
ただ僕は、なにかしらの素晴らしい作品に出会ったとき、その直接的な賞賛と同時に、その造り手の細部に渡る拘りに対し敬意を払う気持ちを持ちたいと思っている。
1981年サンセール生まれたセバスチャン・リフォーは、幼い頃から家族の農業を手伝いながら将来のワイン造りを志していたそうだ。大学で醸造学を学んだ後ロンドンに渡り、初めてナチュラルワインを触れ、そこからフランス・パリにある世界有数のワイン販売店「ラ・ヴィーニャ」で働くようになる。2004年にサンセールに戻った後は、畑を無農薬にし、添加物を減らしながら、徐々に自然派ワインに変えていった。
ボジョレーやロワールにナチュラルワインの造り手が多いのは、ブルゴーニュやボルドーに比べて、ワインの単価が低いがために、農業や醸造過程を思い切って変更できるというのが大きな理由だろう。だたし、セバスチャン・リフォーが行った改革は単なるオーガニックにするという試みだけとどまらない。
無農薬はもちろんのこと、非常に厳しい剪定でブルゴーニュ特級畑並の収穫量に抑えている。また、ぶどうによっては貴腐菌がつくまで収穫を遅らせている。もちろん、ロワールでは異例づくめな作り方だ。さらには、上級キュベの畑ではトラクターを使わず馬を使っているそうだ。彼に言わせると50年前のサンセールの作り方に戻しただけだと言うことだが、その収穫方法は手間がかかりリスクも高い。ここに至る過程には、試行錯誤を重ねた相当の努力が必要だったに違いない。
ワインに使うぶどうの樹齢、貴腐ぶどうの割合、発酵方法、熟成期間、S02添加の有無、などの醸造過程はキュベによって異なるが、共通していることがある。それは、他のどのソーヴィニョンブランとも全く違うということだ。AOCをサンセールとしているのに違和感があるほどだ。
願わくば、ワイン好きの人には、このロワールの鬼才が創るナチュラルワインを一度でもいいから飲んでほしい。単に美味しいと一言で評価してもいいし、他のソーヴィニョンブランとの違いを味わってもらってもいい。あるいは、自分には合わないと判断してもらっていい。一人でも多く、このワインの素晴らしさに出会い、セバスチャン・リフォーの途方も無い努力が少しでも報われる事を祈っている。
という事で、よかったら、この香り高く複雑で余韻の長いワインを飲んでみてください。中目黒ワインバーepulorでお待ちしております。