夜の瞑想のジャズピアノ

最近、繰り返し聴くアルバムがある。Brad Mehldauの「Your mother should know」、主にビートルズの曲をカバーしたライブアルバムだ。Brad Mehldauは最も偉大な現代ジャズピアニストの一人で、Pat Methenyとの共演などでも話題になり、日本にも何度か来て演奏している。そのうちの一つは「Live In Tokyo」というレコードにもなっている。

 


「Your mother should know」で特によく聴いているのが「For No One」と「Golden Slumbers」だ。できれば、ジャズ喫茶やレコードバーなどの音響のいいところで聴いてもらいたい。

https://www.youtube.com/watch?v=mm1J-qlWxYc

https://www.youtube.com/watch?v=9mRQ2UmmrT0

「Golden Slumbers」は1969年9月に発売されたアルバム「Abbey Road」に収録されている。このビートルズの最も有名なレコードジャケットは、バラバラになってしまったメンバーの気持ちを、どことなくうかがえるような気持ちにさせる。翌年に解散する彼らは、破局がもうすぐそこにある事を意識していたに違いない。

「Golden Slumbers」はポール・マッカートニーが、たまたま見つけたトマス・デッカーという劇作家の子守唄から発想を得ている。Slumbersとは、まどろみや活動休止という意味を持っている。ポールはメンバー同士のいざこざに疲れていたのかもしれないし、終焉にむかっていくビートルズを意識していたのかもしれない。

Brad Mehldauの解釈と表現は、とても独特だ。彼の演奏を聴くと、まるで暗闇の中で美しい過去を手探る試みを思い起こさせる。ポール・マッカートニーの個人的な想い入れは、ある種の普遍的な人の気持ちを代弁する音楽として、何十年もの夜を通じて磨かれてきたんじゃないかと思うほどだ。

こういった情緒的に演奏するピアノは、シンプルがゆえに、表現にごまかしが効かない。彼が奏でる音の響きとその深さが、意識の意味を貫き、一つ一つゆっくりと深淵に届いていく。僕はこのところ、何度も繰り返し、このレコードを聴いている。夜の瞑想に最適な音楽ではないかと思う。