悪魔の取引で失ったものは

ファウストに限らず、あらゆる取引は全て悪魔の取引だ。それがどれほど小さい取引で、どれほどその影響を意識したかに関わらず、結果として得るものと失うものは、全て自分で背負わなければならない。音楽についてもそうだ。

 

かつてアナログレコードで聴かれた音楽はCDなどのデジタル音源に変わり、今や音楽は携帯に収まるほどコンパクトになった。デジタル情報になる事により、劣化しない情報に変換でき、コピーが容易になり、どこにでも持ち運べるようになった。ほとんど全ての人は、それを享受し、かつてなかった利便性を得ることができた。では、このアナログをデジタル化する取引で失ったものとは何か。

「ゆれる」や「ディアドクター」などで有名な西川美和という映画がいる。彼女の著書によれば、予算の関係でフィルムカメラからデジタルに変えるべきかという問題でとても頭を悩ましたそうだ。散々悩んだ挙句、彼女は、その悪魔の取引を受ける事にした。

撮影部や証明部のスタッフの目の奥にはひっそりとした落胆が見えました。私の目には見えない色彩の微妙な差異、フィルムというものの持つ、決して他には追随を許さない絶対的な神髄を、彼らは感じていたのだと思います。その晩私は家に帰ってから、一人で泣いてしまいました。まさかとおもわれるでしょうが、自分を育ててくれたはずの老いた父親を捨てたような、どうにもやりきれぬ心地だったのです。(引用:映画にまつわるXについて/西川美和

あなたが今、デジタル音源で音楽を聴いているとしたら、たとえ無意識であったとしても、それは悪魔の取引をしたという事だ。では、一体、あなたは何を失ったのか。

失った全てを取り戻すことはできないかもしれない。だが、失ったものの大きさを確認する方法ならある。

epulorに来てね。笑