コーヒーを飲みながらルイジ・ギッリの写真集をめくって想うこと

中目黒epulorにはいくつかの美術書や写真をおいていますが、恵比寿・代官山epulor on the winding pathにも、レコードを聴きながら、コーヒーやワインともに楽しんでいただくのにぴったりな書物を置いていこうと思っています。

よかったら、静かな午後にコーヒーを飲みながら、イタリアの写真家 ルイジ・ギッリ(Luigi Ghirri)の写真集「It’s beautiful here, isn’t it」を手に取ってみてください。冒頭、かなりテキストが多くて面食らうかもしれませんが、写真をみながらページをめくっているだけでかなり楽しめると思います。

僕は、この写真集の特徴的な色彩に印象が残りました。夏の日差しに照らされ、少し靄がかったような景色を思わせる抑えられた色彩です。この写真集の実際の持ち主であるスタッフにいわせれば、平面性にも彼の特徴があるとのことです。なるほど、素人目からすると、わかりやすい技術として、立体感を持たせるように構成を考えがちになりそうですが、彼の写真にはそのような思索の気配が見当たりません。ストーリーの演出として、劇的な瞬間をつなぎ合わせているのではなく、見慣れてきたはずの、しかし見落とし続けてしまった記憶を呼び起こすような、心の奥底にたたずむ感情に訴えかける写真です。

ルイジ・ギッリは、写真をthinking(思考)とlooking(まなざし)を行ったり来たりさせ、結びつけるものだという主旨の事を言っています。鑑賞によって、どのような思考を想起させるかは、しかし、あらゆるアートに共通する手段であり、優れたアートであるほど説明しがたく、かつ深く鋭く心に刻みこむものだと思います。彼の写真をめくっていくと、きっと何かを想起させ、疼く小さな記憶が不思議な形をして蘇ってくると思います。余白と気配で構成された美しいアンビエントのレコードを聴きながら、ご覧いただけると嬉しいです。

東京都写真美術館では、2025年9月28日まで、「ルイジ・ギッリ 終わらない風景」で彼の作品が展示されています。興味がありましたら、足を運んでみてください。
https://topmuseum.jp/contents/exhibition/index-5073.html