とある映画の裏話と月夜に流すレコードについて

「チャーリーとチョコレート工場」という映画を見たことはありますでしょうか?ロアルド・ダールが1964年に発表したイギリスの児童小説「チョコレート工場の秘密」をベースにティム・バートンが監督、ジョニー・デップが出演した2005年発表の作品です。この映画にはいくつかの狂気的ともいえる裏話があります。

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作品の中のチョコレート工場に庭園があるのですが、あれは一般的なオブジェではなく、なんとパティシエが全て実際に作った本物のお菓子でできているそうです。また、工場で40匹ほどのリスが台の上で並びクルミを割っているというシーンがあるのですが、あれはCGではなく本物だそうです。このシーンのために、監督が数か月をかけてリスを調教して準備したというから驚きです。。

この映画の評価に関しては、もちろん人それぞれなのでしょうが、少なくとも、あの独特な世界観の残像は、多くの人の心に残っていると思います。作り手にはどうしても表現したいストーリーがあり、一つ一つのシーンを作るにあたって、背景、流れる音楽、出演者の服装、セリフや表情など、細部にまでこだわった結果、その浮かび上がってくる何かを、人は感じ取るのではないでしょうか。

映画を見たほとんどの人は、作り手がどれほど細部にこだわり、どれだけエネルギーを費やしたのなんて、知る由もないでしょうし、実際に知る必要もないのかもしれません。何かを創造するというのは、ほとんどの人に気づかれない小さなこだわりを、さらなるこだわりを持って丁寧に組み合わせる事であり、それをどこまで孤独に突き詰められるかが勝負なんじゃないかと僕は思います。

僕らのカフェ&バーも、小さなひとつひとつのシーンを意識して空間を作っています。そこにいる人や雰囲気に合わせて、音楽を選び、カップを選び、コーヒーを出します。お酒をえらび、花を飾り、絵を飾り、道具をそろえ、配置してます。たとえ、その意図がひとつも理解されなかったとしても、ふと感じてもらえる何かが、その人の印象となって残ってもらえれば、僕らにとってそれはとても大きな喜びです。

僕たちの流すレコードは、あらかじめ決まった順番で想定しているものではありません。その場の雰囲気に合わせることもありますし、雨の音にあわせることもありますし、特定のお客様に捧げる場合もあります。先日、中秋の名月の日、僕たちは月に関するレコードをながしました。”Fly me to the Moon”も”Moon River”も”Moon Dance”も、やはり、月の夜に合う曲です。それぞれのアーティストが、それぞれの感性で表現した月に関する音楽には、あらためて聴くと、あらたな発見があります。

仮に僕たちが意図して流す音楽に、誰一人気づいていなかったとしても、その帰り道、目黒川から眺める満月に、もしかすると特別な余韻を与えられたのかもしれません。そうだとしたら、とても嬉しいですよね。

そんなことを考えながら、僕らは今日もレコードを流します。