music barオーナーが考える、結局、音がいいとは何なのか?アナログとデジタルの違いとは。

同じ音楽を聴くのでも、音源がアナログやデジタルだったりで、音の良さは変わるのだろうか。そもそもアナログ・デジタルとは何なのだろうか。

アナログレコード

アナログレコード

 

アナログ時計とデジタル時計の違いを考えてみよう。アナログ時計は秒針が連続的に回ることにより時間の経過を表現する。それに対してデジタル時計は一秒ごとの表示で時間の経過を表現する。つまり、デジタルとは、なだらかな坂道を階段にするような、ある種の近似なのだ。

デジタル化の最も大きなメリットは、それをデータ化することにより、保存や加工を容易にすることができる点だろう。それにデジタルデータはそれ自体劣化することはない。それに対するデメリットは情報を失うことだ。坂道は坂道であって階段ではない。では、問題は何かというと、その近似が人間が認知できるほど、大きいかどうかという点だ。0.1mmの段差で作られた階段はもはや階段ではなく、人間には坂道と同じだ。同じことは音楽でも言えるのだろうか?

現代のほとんどの人が聴く音楽の音源はデジタル音源だ。スマートフォンもパソコンもCDもデジタル化された情報を再生して音楽を聴いている。これに対してレコードはアナログ音源だ。とはいえ、場所もかさみ手間のかかるレコードで音楽を聴く人はそれほど多くないと思う。では、CDとレコードとで、どれほど音の違いがあるのだろうか。

CDの規格は44.1kHzで20Hz~20kHzまでの音域をサンプリングして記録している。1/44100秒毎に音をサンプリングし、音の高さを20Hz~20kHzまでの範囲で限定しているという意味だ。それにより情報量を文字通りコンパクトにしている。この近似は人間の聴力に対して十分だろうか。これほどまで間隔を小さくしてサンプリングし、人間の可聴領域の範囲でカットされていれば、人間には区別できないと思うかもしれないが、実はそうではない。

もちろん、その曲によっては人間の耳ではほとんど区別できないものもあるが、はっきりと違いを理解できるものもある。その原因は高音域の存在感だ。人間の聴こえるギリギリの高音域20kHzを、44.1kHzでサンプリングすると、通過する音波はたったの2(≒44.1kHz/20kHz)の波ということになる。これではまともに鳴ることない。CDでも十分ないい音がなるという曲は、その曲を構成する基音・倍音の高音域の存在感がほとんどないがためである。

実際に高音域が鳴って音域が豊かになると、流れる音楽の印象は大きく変わる。なんというか音に奥行きがでるようになるのだ。こればっかりは本当にいい音で音楽を聴くという体験をしなければ、うまく理解してもらえないのかもしない。

アナログとデジタルの違いで、これとは別の経験をしたことがある。ある有名な絵画が日本に来て、それを鑑賞したときのことだ。その絵はあまりに有名なので、僕は何度もそれをネットや本で観たことがあり、実は好きでもきらいでもなかったので、単なる本物の確認作業のような気持ちで行ったのだが、実際の絵は感動的なほど素晴らしかったのだ。

風景写真と実物の風景の違いなら、別の説明が可能かもしれない。そこにいるという達成感、立体的な情景、空気の匂いや聴こえる音などが、その景色を違うものに見せるかもしれない。だが、絵の写真と絵そのものでは話が別だ。この違いは、絵そのものか、デジタル処理された絵の違いでしかない。だから僕ははっきりと断言できる。デジタル化して失ったものは決して小さくない。人間の感覚を軽く見てはいけないのだ。

では、音源をアナログレコードにして、十分な再生域のあるスピーカーで聞けば、音は良くなるのだろうか。残念がら話はそこまで単純ではない。

(つづく)