ミダス王の犯した過ち

ギリシャ神話に登場するプリュギアのミダス王は、ロバの耳を持つことで有名だ。音楽対決における太陽神アポロン(オリンポスの神の上層部)の勝利に対し、周到な根回しも忖度もなしで堂々と異議を唱えたため、烈火の如く激怒された挙句、耳をロバの耳にされてしまったのだ。

 

それとは別にミダス王にはもう一つ有名なエピソードがある。あるときにベロベロに酔っ払ったおじさんを介抱したところ、彼が酒の神バッカス(オリンポスの神の上層部)の養父だったため、バッカスから感謝されたうえ「どんな報酬でも与えるよ。」と言われたので、「触れたものを全て黄金に変えてほしいっす。」という願いを聞き入れてもらえたのだ。

テンション上がったミダス王は身の回りのものをどんどん黄金に変えていくが、さて腹が減ったなと思いリンゴを手にした瞬間に自分の犯したミスに気づき始める。父に走り寄ってきた哀れな一人娘を抱き寄せ、彼女を黄金の塊に変えてしまったとき、ミダス王は自分の願いを激しく悔やみ、それから富を嫌悪するようになった。

この神話から導き出せる教訓は単純だ。「触れたものを全て、黄金に変えてほしいっす。」なんていうバカな願い事なんてするべきではなかった。「おまじないを言った後に触れた任意の無機物は全て、黄金に変えてほしいっす。」という願いをするべきだったのだ。

さらにおまじないも十分に気をつけるべきだ。「ゴールド!」みたいな単純すぎるおまじないだと、月曜日の仕事中iPhoneをみながら「リアルゴールド飲みたいな」と言った瞬間にiPhoneが黄金の塊になってしまい「おい!グラム当たりの市場価格的には十分にもとは取れて高い利益率は確保できるものの、保存したデータとか復活できるかどうかわからないし、今日一日携帯使えなくなって地味に不便じゃねーか!」という悲劇を生んでしまう。

単純でもなく、それでいて忘れることのない、おまじない。それさえあれば悲劇は未然に防ぐことができる。僕はミダス王のような過ちは犯さない。

「金に触れても怪我はしない。だが、もし手について離れないようなら、金は骨まで傷つける。」(ジョン・スチュアート・ミル)